AI論文解説!話題の中国産LLM-DeepSeek-V3の革新性を紐解く:DeepSeek-V3 Technical Report

AI論文解説!話題の中国産LLM-DeepSeek-V3の革新性を紐解く:DeepSeek-V3 Technical Report

Description

DeepSeek-V3は、これまでの言語モデルを超える性能を持つ新しいAI技術です。このモデルは、非常に多くのデータを学習し、効率よく動く工夫がされています。たとえば、「MLA」という特別な方法で情報を選び取り、「MoEアーキテクチャ」で無駄を減らしています。また、簡単には壊れない安定した仕組みを使って作られています。この記事では、そんなDeepSeek-V3の仕組みや特徴、驚くべき結果について、わかりやすく解説します。最新のAI技術の秘密を、一緒に探ってみましょう!# 自然言語処理(NLP)

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こんにちは!ホストのアロイです。普段は大学でAI研究に携わりながら、最新の技術動向を分かりやすく解説する活動をしています。今日は、AI技術の最前線を切り開く論文「DeepSeek-V3 Technical Report」、日本語では「DeepSeek-V3技術報告」をご紹介します。オープンソースAIの新たな挑戦について、詳しくお話していきますね。

はじめまして、ゲストのノバです。大学生で、AIやテクノロジーに興味を持っている一般リスナー代表として参加しています。「DeepSeek-V3技術報告」というタイトル、とても興味深いですね!オープンソースAIというと、誰でも使えて改良できる技術という認識ですが、この論文はどのようなものなのでしょうか?

この論文は、オープンソースの大規模言語モデルDeepSeek-V3の開発に関するものです。従来、オープンソースモデルは商用モデルより性能が劣る傾向がありましたが、この研究ではMixture-of-Experts(MoE)というアーキテクチャを採用し、革新的な手法を導入することでこの課題を解決しています。具体的には、「補助損失なし」の負荷バランシング戦略や、複数トークンを同時に予測する訓練目標、8ビット浮動小数点を活用した学習フレームワークなどを開発しました。その結果、671Bという膨大なパラメータを持ちながら実際の処理では37Bのみが活性化される効率的なモデルが誕生し、約557万ドルという比較的経済的なコストで、商用モデルに匹敵する性能を達成しています。

すごい成果ですね!専門的な用語がいくつか出てきましたが、Mixture-of-Expertsというのは、いくつもの「専門家」AIを組み合わせたシステムということでしょうか?また、オープンソースモデルが商用モデルに匹敵する性能を出せたことの意義は大きいと思います。ですが、私には少し解説が難しく感じました。もう少し噛み砕いて説明してもらうことは出来ますか?

ご説明しますね。DeepSeek-V3の研究は、「AIの民主化」とも言える取り組みなんです。これまで、誰でも使えるオープンソースAIは、GoogleやOpenAIなどの企業が開発する高性能AIに性能面で負けていました。簡単に言うと、無料で使えるAIと有料のAIには大きな差があったんです。DeepSeek-V3はこの問題を解決するため、「Mixture-of-Experts」という仕組みを使いました。これは、例えば学校で「数学の先生」「国語の先生」「理科の先生」などを必要に応じて呼び出すように、様々な専門AIを効率良く組み合わせる方法です。この工夫によって、オープンソースでありながら、有料の商用モデルと互角の性能を実現したんです。実際にテストでは、数学やコーディングなど様々な分野で素晴らしい成績を収め、約557万ドルという比較的低コストで開発できました。つまり、高性能AIが誰でも使える未来への大きな一歩なんですよ!

なるほど!この研究は本当に画期的ですね。AIの世界に革命を起こす可能性を感じます。この論文についてもっと知りたいです!この論文はどのジャーナルに掲載されていて、いつ発表されたものなのでしょうか?また、DeepSeek-V3を開発したチームについてもう少し教えていただけますか?

この論文は2025年2月18日に公開された論文で、現在もarxivにて無料公開されています。著者はDeepSeek-AIの研究チームによるものとなっています。arXivは研究者が論文を公開前に共有できるプラットフォームで、査読前の最新研究成果にアクセスできる貴重な場となっています。

DeepSeek-AIというと人工知能研究の最前線にいる企業ですよね!arXivでの公開ということは、最新の研究成果をいち早く共有したいという意図があるんでしょうか?それにしても、この研究の背景には何があるのでしょう?どういった課題を解決しようとしているのか気になります。

この研究の背景には、大規模言語モデル(LLM)の急速な進化がありますが、オープンソースモデルは商用モデルに比べて性能面で劣っていたという課題がありました。DeepSeek-V3はこの問題を解決するために開発されたモデルです。具体的には、Mixture-of-Experts(MoE)というアーキテクチャを採用しています。これは、すべての計算を一度に行うのではなく、入力に応じて「専門家」と呼ばれる部分だけを活性化させる仕組みです。従来のMoEモデルでは、負荷バランシングのための補助損失関数が性能を低下させる問題がありましたが、DeepSeek-V3はその補助損失を使わない新しい戦略を導入しました。また、一度に複数の単語を予測するマルチトークン予測も採用して性能向上を図っています。

なるほど!AIの世界でもオープンソースと商用の格差があったんですね。MoEというのは、すべての脳を使うのではなく、必要な専門家の知識だけを呼び出すような仕組みということなんでしょうね。質問なのですが、「補助損失関数」や「マルチトークン予測」とは何ですか?解説していただけると助かります。

良い質問ですね!「補助損失関数」とは、AIが均等に仕事を分担できるように導入される追加の目標のようなものです。例えば、クラスの班活動で特定の人だけに仕事が集中しないよう先生が介入するイメージです。しかし、これが逆に性能を落とすことがわかりました。「マルチトークン予測」は、AIが一度に複数の単語を予測する能力のことです。例えば、普通のAIが「おはよう」と一語ずつ予測するのに対し、このモデルは「おはようございます」と先の言葉まで一気に予測できるんです。これにより処理速度が上がり、より自然な文章が生成できるようになります。

なるほど!補助損失関数の仕組みがよくわかりました。班活動の例えが分かりやすいです。マルチトークン予測の技術も興味深いですね。このDeepSeek-V3は具体的にどのような方法で開発・検証されたのでしょうか?効率的な推論や経済的なトレーニングについてさらに詳しく知りたいです。

この研究では、DeepSeek-V3という大規模言語モデルをより効率的かつ経済的に構築するための様々な手法が検証されました。まず技術面での革新として、Multi-head Latent Attention(MLA)という推論時のメモリ使用量を削減する技術と、DeepSeekMoEという専門家モデルを組み合わせた構造を採用しています。このモデルは驚くべきことに総計671Bという膨大なパラメータを持ちながら、処理時には37Bだけが活性化される効率的な設計になっています。また、従来の問題点を解決する「補助損失なし」の負荷バランシング戦略や、複数の将来トークンを予測するマルチトークン予測訓練などの新しい学習戦略も導入されました。

ん~。専門家でない私には、少し難しいです。「Multi-head Latent Attention(MLA)」とは何ですか?また、671Bや37Bのパラメターの規模がどの程度の物なのかについても解説お願いします!

「Multi-head Latent Attention」というのは、簡単に言うと「必要なときだけ注目する」仕組みなんです。例えば教室で先生の話を聞くとき、常に全ての言葉に集中するのではなく、重要なポイントだけをメモするようなものです。これにより計算効率が良くなります。次に671Bというのは、671ビリオン(6710億)のパラメータ数を意味します。これは地球上の全人口の約85倍もの数です!ですが通常は37Bだけが働くので、例えるなら大勢のスタッフがいる会社で、その時の仕事に必要な人だけが出勤するような効率的な仕組みになっているんですよ。

なるほど!モデル構造がとても工夫されているんですね。「必要な部分だけ活性化する」という発想は本当に効率的だと思います。でも疑問なのが、このDeep Seek V3ではど、の程度の学習を行ったのですか?教えて頂いてもよろしいでしょうか?

DeepSeek V3の学習規模は驚くほど効率的なんですよ。2048台のNVIDIA H800 GPUを使っていますが、これはGPU界のF1マシンとも言えるかなりハイスペックな機器です。最新鋭のH100ではないものの、依然として強力な性能があります。学習データは約14.8兆ものトークンで、1兆トークンの処理にかかる時間が約3.7日という驚異的なスピードです。全体の学習にかかった費用は約557万ドル(約8億円程度)ですが、これはGPT-4やClaudeのような他の大規模モデルと比べると、はるかに少ない投資で実現しています。つまり、少ないリソースでも高い性能を発揮できる、コスパの良いモデル開発に成功したということなんです。

なるほど、DeepSeek V3の開発方法はとても興味深いですね!技術的な部分で特に気になったのが、Multi-head Latent AttentionとDeepSeekMoEという新しい構造です。これらによって効率化が実現されたんですね。それで、これら創意工夫の結果、どのような成果をもたらしたのでしょうか?この研究で実際にどのような結果が得られたのか、とても気になります。

この研究での最も重要な発見は、DeepSeek-V3というオープンソースモデルが商用モデルと肩を並べる性能を実現したことです。MMLU(多様な知識を測定するテスト)では88.5点、難度の高いMMU-Proでも75.9点、大学院レベルの問題集GPQAでは59.1点を獲得し、すべてのオープンソースモデルの記録を更新しました。数学分野では特に優れた性能を示し、MATH-500で90.2%、AIME 2024でも39.2%の正答率を達成。これは思考の連鎖を使わないモデルとしては最高の成績です。コーディング能力も飛躍的に向上し、HumanEval-Mulで82.6%、LiveCodeBenchで40.5%という高い成功率を記録しました。

すごい成績ですね!特にオープンソースモデルでありながら商用モデルに匹敵する性能を達成したというのは画期的だと思います。素晴らしいですね!続いて、この研究の新規性について、先行研究と比較するとどのような点が特に画期的だったのか、解説していただけますか?

先行研究と比較した場合のDeepSeek-V3の革新性は、いくつかの独自技術にあります。まず注目すべきは「補助損失なし」の負荷バランシング戦略です。従来のMoE(混合エキスパート)モデルでは、専門家と呼ばれる部分間の処理負荷に偏りが生じる問題がありました。この新しい方法では、余計な処理を加えることなく、すべての専門家が均等に活用されるようになり、効率的な処理と多様な専門性の維持を両立しています。また、マルチトークン予測という手法も画期的です。通常のAIは「次の単語は何か」を予測するだけですが、DeepSeek-V3は複数の将来の単語を同時に予測することで、より深い文脈理解と自然な文章生成を実現しています。

なるほど!従来のMoEモデルの問題を解決する「補助損失なし」の戦略と、将来の複数単語を予測するマルチトークン予測が大きな革新なんですね。技術面でも独自の進展があったと思いますが、実装面での新規性はどのようなものだったのでしょうか?また、これらの革新的なアプローチによって生じた課題や限界はありますか?

DeepSeek-V3は非常に高性能ですが、その利用にはいくつかの課題が存在します。まず、効率的な処理を行うためには大量のGPUリソースが必要となるため、小規模なチームや一般企業では運用が難しいという問題があります。また、前バージョンと比べて生成速度は向上しているものの、実用面で求められる低遅延にはまだ改善の余地があります。さらに、利用規約によりユーザーデータが運営側に自由に利用される可能性があり、プライバシーの面で懸念される点や、出力結果に政治的バイアスが反映されるという注意も必要です。一方、オープンウェイトモデルとして自社サーバーで運用すればデータ漏洩のリスクを軽減できるなど、利用方法に工夫すれば十分に活用できる面もあります。

なるほど、高性能な分だけハードウェア要件も高いんですね。それって研究と実用の間にギャップがあるということでしょうか? 優れた技術でも、一般の人や小さな組織が使えなければ普及は難しそうです。このモデルは将来どのような分野で特に役立つ可能性があると考えられていますか? 教育や産業など、実用的な価値や将来性について教えていただけますか?

この研究がもたらす応用可能性は実に幅広いんです。DeepSeek-V3の最大の強みはオープンソースモデルであることで、企業や大学などが自由に利用・改良できます。これによりAI開発の民主化が大きく進むでしょう。特に注目すべきは数学とコーディング分野での高い性能です。これにより、例えば高校生の数学学習をサポートするAIチューターや、プログラミングの効率を上げる開発支援ツールなどが実現可能になります。また128Kという長いコンテキスト処理能力は、法律文書や論文など長文を扱う専門分野で革命を起こす可能性があります。

なるほど!オープンソースということは、私たち一般の人でも使えるチャンスがあるということですね。高校生にとっては特に魅力的だと思います。数学の問題が分からない時に、ただ答えを教えてくれるだけでなく、解き方のプロセスを学べるAIチューターがあればすごく助かります!それと、プログラミングを始めたばかりの人にとっても心強い味方になりそうですね!

それでは、今日お話しした内容をまとめていきましょう。DeepSeek-V3というオープンソースAIモデルについて、その革新的な技術と達成した成果について見てきました。

はい、とても興味深い内容でしたね!オープンソースのAIでもここまで高性能なものが作れるというのは驚きでした。ぜひ要点を振り返ってください!

まず第一の要点は、DeepSeek-V3が様々なベンチマークテストで驚異的な成績を収めたことです。MMLUで88.5点、数学分野のMATH-500で90.2%、プログラミング関連のHumanEval-Mulで82.6%など、オープンソースモデルとしては最高の成績を達成しました。特にArena-Hardでは85.5%のスコアで、オープンソースモデルとして初めて85%の壁を突破したんです。

すごいですね!オープンソースでありながら商用モデルに肩を並べる成績だなんて。特に数学やプログラミングの分野で高い性能を発揮しているのが印象的です。教育や開発の現場でも活用できそうですね。

第二の要点は、このモデルを経済的に開発できたことです。DeepSeek-V3は革新的な「Mixture-of-Experts」構造と「補助損失なし」の戦略、さらにFP8混合精度訓練などの効率的な手法を採用。約557万ドルという比較的低コストで開発できました。これは、高性能AIが特定の大企業だけでなく、より広く開発・利用できる可能性を示しています。

わあ、AIの民主化につながる成果ですね!でも利用する際には、プライバシーや出力のバイアスなどの懸念点にも注意が必要だと理解しました。今日はDeepSeek-V3について多くを学べて本当に勉強になりました。ありがとうございました!

DeepSeek-V3 Technical Report

DeepSeek-V3技術報告

Journal: arXiv
Publication Date: 20250218

Author Information

Authors: DeepSeek-AI research@deepseek.com

Affiliations: DeepSeek-AI: research@deepseek.com

要約

DeepSeek-V3は、オープンソースAIの限界を突破するために開発された大規模言語モデルです。研究チームは「オープンソースモデルでも商用モデル並みの性能を経済的に達成できるのではないか」という仮説のもと、モデル構造と訓練方法の両面で革新的なアプローチを試みました。 このモデルは、総計671Bのパラメータを持ち、各トークン処理時には37Bが活性化されるMixture-of-Experts(MoE)構造を採用しています。従来のMoEモデルでは負荷バランシングのための補助損失が性能低下を招く課題がありましたが、DeepSeek-V3では「補助損失なし」の新戦略を導入することでこの問題を解決しました。また、次のトークンだけでなく複数の将来トークンを予測するマルチトークン予測訓練も導入し、予測精度を向上させています。 技術面では、FP8(8ビット浮動小数点)混合精度訓練フレームワークを大規模モデルで初めて検証し、DualPipeアルゴリズムによって計算と通信のオーバーラップを実現しました。これにより、ノード間での専門家処理を効率化しています。 データ面では、14.8兆の多様で高品質なトークンを用いて事前学習を行い、YaRN技術を活用してコンテキスト長を32K、さらに128Kまで拡張しました。2048台のH800 GPUからなるクラスターで訓練を行い、1兆トークンの処理に約180,000 GPU時間(3.7日)という効率を達成しています。 評価の結果、DeepSeek-V3はMMLU(88.5点)、MATH-500(90.2%)、LiveCodeBench(40.5%)などの多くのベンチマークでオープンソースモデルの中で最高性能を記録しました。特に注目すべきは、Arena-Hardで85.5%のスコアを達成し、オープンソースモデルとして初めて85%の壁を突破したことです。中国語の評価でも強みを示し、C-SimpleQAではGPT-4oを上回る64.8%の正解率を達成しました。 全体の開発コストは2.788M GPU時間(H800 GPU 1時間2ドルと仮定して約557万ドル)と経済的であり、オープンソースモデルでありながら商用モデルに匹敵する性能を達成するという仮説を実証することに成功しました。これにより、高性能AIの民主化に大きく貢献する成果となっています。

背景

近年、大規模言語モデル(LLM)は急速に進化し、人工知能の発展に大きく貢献しています。しかし、オープンソースモデルは商用モデルに性能面で劣る傾向がありました。 DeepSeek-V3はこの課題を解決するため、Mixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャを採用し、効率的な推論と経済的なトレーニングを実現しています。従来のモデルでは、負荷バランシングのための補助損失関数が性能を低下させる問題がありましたが、DeepSeek-V3は「補助損失なし」の戦略を新たに導入しました。 また、マルチトークン予測の訓練目標を設定することで、性能向上を図っています。さらに、FP8混合精度トレーニングフレームワークや通信ボトルネックを解消するDualPipeアルゴリズムなど、効率的なトレーニング基盤を構築しました。 これらの革新により、DeepSeek-V3は671Bパラメータ(活性化するのは37B)のモデルを経済的なコストで訓練することに成功し、オープンソースモデルでありながら商用モデルに匹敵する性能を達成しています。

方法

DeepSeek-V3の開発では、大規模言語モデルをより効率的かつ経済的に構築するための複数の革新的手法が検証されました。 モデル構造としては、Multi-head Latent Attention (MLA)とDeepSeekMoEを採用しました。MLAは推論時のKey-Value (KV)キャッシュを削減する技術で、DeepSeekMoEはより細かい粒度の専門家と共有専門家を組み合わせた構造です。このモデルは総計671Bパラメータを持ち、処理時には37Bが活性化されます。 さらに革新的な「補助損失なし」の負荷バランシング戦略を導入しました。これは、従来の方法では負荷バランスを促すための補助損失がモデル性能を低下させていた問題を解決するものです。また、マルチトークン予測訓練目標も設定し、次のトークンだけでなく複数の将来トークンを予測することで性能を向上させました。 技術面では、FP8(8ビット浮動小数点)混合精度学習フレームワークを導入し、初めて極めて大規模なモデルでその有効性を検証しました。これにより学習速度向上とGPUメモリ使用量削減を両立しています。 通信効率向上のため、DualPipeという新しいパイプライン並列アルゴリズムを開発しました。これは計算と通信を完全にオーバーラップさせ、通信による遅延を隠蔽する技術です。また、ノード間のall-to-all通信を効率化するため、InfiniBand (IB)とNVLinkの帯域幅を最大活用する通信カーネルも開発しました。 データ面では、14.8兆の多様で高品質なトークンを用いて事前学習を行いました。2048台のNVIDIA H800 GPUを搭載したクラスターで、1兆トークンの処理にわずか180,000 GPU時間(約3.7日)という高効率を達成しています。 学習過程は2段階のコンテキスト長拡張(最初4K→32K、次に128K)を行い、YaRN技術を用いて長文処理能力を強化しました。最後に教師あり微調整と強化学習を行い、人間の好みに合わせてモデルを調整しました。 全体の事前学習は2664K GPU時間、コンテキスト長拡張は119K時間、ポストトレーニングは5K時間で、合計2.788M GPU時間(H800 GPU 1時間2ドルと仮定して約557万ドル)という経済的なコストで開発を完了しました。

結果

DeepSeek-V3の研究により、オープンソースモデルが商用モデルに匹敵する性能を達成できることが明らかになりました。具体的には、MMLU(多様な知識テスト)で88.5点、MMLU-Proで75.9点、GPQA(大学院レベル問題)で59.1点を獲得し、すべてのオープンソースモデルを上回りました。 特に数学分野では、MATH-500で90.2%、AIME 2024で39.2%の正答率を達成し、非長鎖思考モデルとしては最高性能を記録。コーディング分野でも、HumanEval-Mulで82.6%、LiveCodeBenchで40.5%の成功率を示し、最先端の成果を上げました。 中国語の評価でも、C-SimpleQAでは64.8%の正解率でGPT-4oを上回り、多言語性能の高さも証明されました。 特筆すべきは、Arena-Hard評価で85.5%のスコアを達成し、オープンソースモデルとして初めて85%の壁を破ったことです。これはクローズドソースモデルであるClaude-3.5とほぼ同等の性能です。 さらに、モデルの自己評価能力もRewardBenchで検証され、87.0%のスコアを達成。これはGPT-4oと同等レベルの判断能力を示しています。 これらの結果は、効率的なアーキテクチャと訓練方法を用いれば、比較的経済的なコスト(約557万ドル)でも高性能なAIモデルが開発可能なことを実証しました。

先行研究との比較・新規性

DeepSeek-V3は、既存のオープンソースモデルと比較して複数の革新的な特徴を持っています。まず、「補助損失なし」の負荷バランシング戦略は、従来のMoEモデルで問題となっていた性能低下を解消しました。この方法により、専門家(エキスパート)の多様性を保ちながら効率的な処理が可能になっています。 また、マルチトークン予測という訓練手法を採用し、単に次のトークンだけでなく複数の将来トークンを予測することで、モデルの理解力と生成能力を向上させました。 技術面では、FP8混合精度訓練を大規模モデルで初めて検証し、効率性を高めています。DualPipeアルゴリズムも独自開発され、計算と通信を完全にオーバーラップさせることで、従来のモデルよりも学習効率を大幅に改善しました。 これらの革新により、DeepSeek-V3はオープンソースモデルでありながら、GPT-4oやClaude-3.5のような商用モデルと匹敵する性能を実現し、AI研究の民主化に貢献しています。

限界・課題

DeepSeek-V3は優れた性能を示していますが、いくつかの限界も抱えています。まず、効率的な推論を実現するための推奨デプロイメント単位が比較的大きく、小規模なチームには負担となる可能性があります。一般的な企業や研究機関では、これだけの大規模なGPUリソースを確保するのは難しいでしょう。 また、DeepSeek-V2と比較して生成速度が2倍以上向上したとはいえ、さらなる改善の余地があります。特に低遅延が求められる実用的なアプリケーションでは、まだ十分とは言えない場合があります。 論文では、これらの限界は将来のハードウェア進化によって自然に解決されると期待されていますが、当面は大規模なコンピューティングリソースを持つ組織しかフルに活用できない可能性が高いでしょう。また、商用モデルとの比較においても、一部の特定タスクではまだ改善の余地があります。

応用可能性

DeepSeek-V3の研究成果は非常に幅広い分野で応用可能性を秘めています。まず、オープンソースという特性により、企業や大学などの研究機関が自由にモデルを利用・改良できるため、AIアプリケーション開発の民主化が進むでしょう。 特に数学と coding分野での高い性能は、教育支援ツールや自動プログラミング支援に直接応用できます。例えば、学生の数学学習をサポートするAIチューターや、プログラマーの効率向上ツールなどが考えられます。 また、中国語を含む多言語対応により、グローバルな情報アクセスや翻訳サービスの質が向上する可能性があります。128Kという長いコンテキスト処理能力は、大量の文書解析や要約、法律文書処理など、長文理解が必要な専門分野での活用が期待できます。 さらに、効率的なトレーニング手法は、将来のAIモデル開発コストを削減し、より多くの組織がカスタムAIを開発できる道を開きます。

考察/批評

DeepSeek-V3の論文は、オープンソースAIの可能性を広げる重要な研究ですが、いくつかの観点から考察する必要があります。 技術的観点では、「補助損失なし」の負荷バランシング戦略やマルチトークン予測などの革新的アプローチにより、商用モデルに近い性能を達成した点は高く評価できます。特に数学やコーディング分野での優れた性能は、教育や開発分野での実用的価値が高いでしょう。 一方で、DeepSeekの利用には注意点もあります。利用規約ではユーザーデータがDeepSeek運営会社によって自由に利用される可能性があり、プライバシーの観点で懸念があります。また、出力結果に中国側の見解が反映された政治的バイアスが指摘されている点も留意すべきです。 実用面では、必ずしもDeepSeekを利用する必要はなく、用途によっては他のモデルでも十分な場合があります。ただし、オープンウェイトモデルとして公開されているため、自社サーバー内で利用すればデータ漏洩のリスクを減らせます。さらに、出力バイアスはファインチューニングで調整可能です。 結論として、DeepSeek-V3は技術的に優れた貢献をしていますが、利用時には目的や状況に応じた適切な判断が必要です。

Created: 3/1/2025Updated: 3/2/2025